今朝起きたら、なんとなく身体が重かった。
まあ朝はいつだって最悪だが。それが、たいがいは『頼むから話しかけないでくれ』って思う程度なのが、今日はもう『近寄る奴は死んでくれ』と言いたいほどだった。いつまでも寝床でぐずぐずしてたら不運なリーダーがオレを呼びに来て――犠牲になったらしい。あんまり記憶にないけど。
そのあとは、普段以上に誰もそばに寄って来なかった。

そのままからきしやる気が出なくて、朝から馬車に入れられてしまった。いつもは、さすがに出発するころにはちゃんと目が覚めるのに。
みんなは清々しい朝だから外を歩こうとかなんとかいうんで、馬車にはオレ一人。それで、もういいや続き寝よう、と思って目をつむったら、動いてる馬車の戸が開いてレックが顔を覗かせた。
「大丈夫かテリー?……って、寝てんじゃねえよ!おい、大丈夫か?」
「……ああ」
「具合悪いの?」
「別に」

しかたないなあ、と言って、彼はなぜかアネキを呼んだ。
それからレックに何か頼まれたようで、アネキがオレの横に座った。――それで、だらだらしてるわけにもいかない気がして、オレは心もち姿勢を正した。いや、なんとなく。

「あらテリー、熱があるじゃない」
「……ないよ。平気」
「……あるわよ。いいわ、寝てなさい。無理しちゃダメよ、姉さんここにいるから。ね」
言いながら頭をぽん、とされたらなんとなく安心して、もういろいろ考えるのも億劫で、そのままアネキにもたれ掛かって眠ってしまった。

それからどれくらい経ったのか、ふと気が付くと馬車は停まっていた。隣にいるアネキが、低い声で馬車の外の誰かと喋っている。相手はレックだ。面倒だからオレは寝たふり。
「……シスコンめ、弱って本性が出てやがる」
彼の言葉に、アネキはふふっと笑った。
「残念だけど今日はテリーはお休みね。熱があるわ」
「そっか。じゃあ悪いけどミレーユも馬車にいてやってくれる?」
「ええ。ありがとう」

――なんでありがとうなんだろう。

「まあ今のうちにオネーチャンに甘えとけよ」
「聞いてたら怒るわよ」

聞いてるっての!くそ、覚えてろ。

馬車の扉が閉まって、出発するぞ、って外からリーダーの声がする。再び馬車が動き始めたとき、アネキに声をかけられた。
「起きてたんでしょ、テリー」
「……うん」
「いいリーダーよね」
「どこがだよ」
「あなたへの優しさだもの。気を遣ったり不安になったりしないで済むようにって」

それが、ありがとうの理由ってことだろうか。
知らん顔してるけど、ちゃんと分かって気を回してんだな。
そう思うと、感心する反面ちょっと悔しくもある。




おしまい
(ときめき10の瞬間/ひなた様よりお題をお借りしました)