かぎろい色の強気な瞳、しろがね色のふわふわした髪、さくら色の透けるような肌。
普段は偉そうなことばっかり言うやつ。今は声が漏れないように自分の口元を手で押さえてる。
――もう減らず口も利けない?
そうからかったら、頭をはたかれた。耳まで赤くなってるのがおかしくて思わず笑ったら、相手も笑った。


黒檀色の感情を隠さない瞳、小麦色の日に焼けた腕、珊瑚色のやわらかい唇。
普段は誰にでも無遠慮に干渉するやつ。今はためらいがちに指を身体に滑らせてる。なんとなくもどかしい。
手を伸ばして顔に触れたら、目が合って、嬉しそうに笑った。それでキスしてやろうと思った瞬間、相手の唇が落ちてきた。


***


曖昧な幻が過ぎ去ると、夜は穏やかでした。
レックが小さくなった暖炉の火を起こし直そうとしていると、いま何時?と後ろから声がしました。振り返ると、首までシーツにくるまったテリーがこちらを見ています。
「十二時前」
「……お湯使いたい」
「いま沸かすから。ちょっと待って」

よいしょと起き上がると、テリーは適当に服を着ました。それから自分は隣のきれいなベッドに移って、お前がそっちな、とクシャクシャになったほうを指差しました。レックは苦笑いしただけで文句も言いませんでした。
彼は窓を開けて、乱れたベッドを整えました。窓から冷たく清浄な夜の空気が流れ込むと、部屋に残っていた記憶と気配は消えていきました。

暖炉が盛んに燃えています。テリーはマントルピースの前に敷いた毛足の長いラグに座りこんで、大きなやかんから上る湯気を黙って見ています。
レックはいい加減で窓を閉めると、ベッドに腰掛けて、なんとなくテリーの背中を眺めました。ほとんど必然的にさっきまでのことが思い出されます。でも、背中を見ながら勝手に想像を膨らませるのはちょっと申し訳ないような気もしたので、とりあえず彼の隣に座りました。テリーは微動だにしません。レックはすぐ真横からその顔をじっと見つめました。やっぱり相手は無反応。生意気なやつだな。
それで、さっき申し訳ない気がしたのを取り消して、遠慮せずにいろいろ思い出すことにしました。すると、記憶の中の彼に比べて目の前のきれいな横顔があんまり澄ましてるもんだから、二秒ぐらいでぷっと噴き出してしまいました。
さすがのテリーも嫌な顔をしてこっちを見ました。
「人の顔見て笑ってんじゃねぇよ」
「……横顔に感心してたんだ」
レックは手を伸ばして銀色の髪に触れてみました。髪に触られるとテリーはたいてい機嫌悪くなります。なんだか子ども扱いされているようで気に入らないのです。だけど今は黙って好きにさせてやるつもりのようでした。それでレックはそのまま頭を抱き寄せました。相手はなにも言いません。おやおや。試しに、柔らかい髪に頬を埋めてみました。まだセーフ。それでつい、今日は珍しく寛容なんだな、と言ってしまいました。すると肘でどすんとやられました。残念、アウト。
「調子乗んな」
「寛容じゃなかった……」
「いつだって充分寛容だろ」

よく言うよ。――そう答えようとしました。でもそのとき彼はふと、いつかどこかで聞いた言葉を思い出しました。
いわく、愛とは、寛容。…

「オイ、人の顔見て笑うなって」
「いいじゃん。寛容なんだろ」
「……なんか腹立つな」

不満そうな顔のテリーをよそに、上機嫌のレックは、これ以上喋ってたら妙な気分になりそうだと思いました。うーん、早く寝よう。
「オレもう眠いや。お湯沸いたら勝手に使って」
そう言うと、相手のまつ毛と指先にキスしてレックは立ち上がりました。
「おやすみ、テリー」


なんとなく釈然としない気分で、テリーはお風呂に入りました。




おしまい