41.
ここぞという場面でジャンケンしたら、勝つのはいつだってレックだ。なにせ知っているから
——
テリーは勝ちを意識すると必ずグーを出す。雨降り夕べに買出しを賭けて勝負したら、案の定テリーの負け。しかし彼は駄々をこね、結局レックが出かけて行った。テリーもまた、相手が自分に弱いことを知っている。


42.

地図を眺めて首を傾げていたテリーが振り返り、判るか?と訊いてきた。山の地図読みは難解だ。少し背の低い彼の肩越しに、屈みがちにどれどれと覗き込む。「近いって」とやや迷惑そうに彼が頭を反らした拍子にほっぺとほっぺがくっついた。

彼の頬は、意外ともちもちしていた。



43.
ここんとこ、どうも空に閉塞感を感じるんだ。レックが妙に憂鬱そうにこぼした。「自分が誰かの駒のような気がしてならない」「気のせいだろ。…いや、選ばれた勇者ってのは、まあ駒っちゃ駒か」恨めしそうな顔をしたレックの肩を叩き、その指でオレは空をさした。「全部終わったら、確かめに行こうぜ」


44.『step 1』

天馬の塔でペガサスを解放したとき、テリーはいたく心を奪われた様子だった。無愛想の裏で無類の動物好きなのだ。美しい、と似合わぬ言葉を呟いてペガサスに感嘆している。こんな顔もするんだなとつい見とれた瞬間、目が合った。

なにか?と無造作に首を傾げたその男に、初めて可愛げを見た気がした。



45.『step 2』
朝からテリーと買出しに出たが、目ぼしいものがなく手ぶらのまま昼になってしまった。どっかでひる食って午後はよそを回るか、などと話していると彼の姉と鉢合わせした。「良さげな店があったの、昼から付き合ってくれる?」テリーは二つ返事で「そっちは任せたぜ」と行ってしまった。
——
刹那、俺は。


46.『step 3』
寝る前に一人で葡萄酒を飲んでいたら、テリーが風呂から戻ってきた。「寝酒は毒だぜ」咎めるようなことを言いつつ、彼は(何を思ったか)オレの手からグラスを奪い、一息で飲み干してしまった。「酒は苦手かと」「…え?」気付けば薄紫の瞳がひたとオレを捉えている。確かに毒が回ったらしいと悟った。


47.
誰がどこで手に入れたか。夕食後の卓上にちえのわをたくさん散らかして盛り上がったが、一つだけ誰にも解けないものがあった。寝る前にひとりカチャカチャ試していると、いい加減諦めろ、とテリーに呆れ顔をされた。貸せよ、と奪ったそれを宙に放って刃一閃。シャララン、鋳造の鉄の部品が散らばった。


48.
見せてやる。蒼白い顔で呟き、テリーは黄泉の稲妻を呼び起こした。レックがなにか叫んだ言葉は雷鳴にかき消されて届かなかった。一面の焦土。不意に目眩がしてふらつき、駆け寄って手を差し伸べたレックに寄りかかる。大丈夫?と顔を覗きこんだ明るい瞳と視線が合い
——
ああ、もう大丈夫だ。


49.
初めて目にしたテリーの裸は思った通り華奢な骨格だった一方で、思いのほかよく鍛錬されており、あちこち傷痕だらけで、それにはっとするほど白かった。視線に気付いた彼が訝しげな顔をしたので「意外と良い身体してるなと思って」と余計なことを言うと、嫌味の達人かよ、と舌打ちされてしまった。


50.
僕も君もいつか死ぬ。僕は笑い、泣き、夢想し、あくびをかみ殺す。君は君と僕になにかしらraison d'êtreを見出したがるが、僕は僕と君がこうしている必然性などないことを知っている。僕は鼻唄をうたいながら焚火の始末をしよう、君は絶望せよ。しかし夜は明ける。朝は希望の象徴である。