31.
レックが馬車のはたでなにやら熱心に作業している。南瓜をくり抜いてハロウィンの提灯を作っているらしい。工作好きとは意外だな、とテリーが声をかけると、いいや祭好きなのさ、と返ってきた。よしできた!しかし嬉しそうに提灯を掲げた瞬間、手が滑って真っ二つ。「…いいんじゃないか、猟奇的で」


32.
宿のベッドに寝転がって、テリーはなにか読みものをしている。レックが「飲物いる?」と訊ねると、んー、と気もなさそうな返事。厨房で温めたミルクをもらい、部屋に戻ってチョコレートをひとかけ溶かす。テリーの枕元に置くとふわっと甘い匂いが立ち、つれない彼の顔に思いがけず嬉しそうな表情が浮かんだ。


33.『マシュマロとテリー』
テリーはマシュマロを指でつまんで訝しげに眺めている。卵白でできたこの小さなお菓子を、見たことさえなかったらしい。やがて空腹に耐えかねたか、ひと思いに口へ放り込んだ。むにゅっとする、と頬をムニュムニュさせながら真顔で呟いた。そしてためらわず、二つ目を口へ。


34.『五平餅とテリー』
「うまそうだな!」テリーは声を弾ませた。平らな餅に塗られた砂糖醤油がほんのり焦げて、いかにも心を揺さぶる甘じょっぱい匂いが漂っている。細い杉の串を指でつまんで、冷ますためだろうか、ゆるゆる八の字に振り回してからぱくりとかぶりついたが。見かけ倒しだ、と渋い顔。


35.『どうぶつビスケットとテリー』
紙袋にどっさり入ったビスケットを、テリーは次から次へと口に運んでいる。ざっと三十ほども食べたろうか、彼はようやくビスケットの表面に焼き付けられた模様と文字に気が付いた。「ペリ…カン?魔物か?」口へ。「キリン…魔物か?」口へ。「イヌ。…」袋に戻す。


36.
ガシャン!派手な音がした直後、チッと無遠慮な舌打ちが聞こえた。水場で洗いものをしていたテリーが食器を割っちまったらしい。白い陶器にひとしずくの赤い血が鮮やかに滲んでいる。割れているのはオレのマグだ。「まぁ形あるものはいつか壊れるさ」と取りなすと、苦り顔が少し緩んで、ごめん、と謝られた。


37.
道具屋で買い物したらオマケで飴をくれた。舐めてみたが酸味とえぐみの合わさったような変な味がする。不味い、と吐き出してしまった。するとレックがオレの手からぺとぺとの飴をひょいと取り上げ──無造作に口へ放り込んだ。「は?!なにしてんだお前」「は?なにが?…うわ、確かに不味いな」


38.  
豆苗にまつわるエトセトラ。
「レック、流しの横で育ててた豆苗どっかやった?」「捨てた。なんか臭かったから」「なに勝手に捨ててんだよ。臭くなかった」「腐ってたよ。食えないよ」「食えるか食えないかはオレが決める」「腹壊しても知らないぜ」「レックには食わせてやらんからな」「いりません」


39.『玄関で 無邪気に 飯を食う』(ランダム生成されたお題)
ドアベルが鳴って、扉を開ければレックの姿。何か荷物を抱えている。「唐揚げたくさん作ったんだけど、いる?」受け取った紙袋を覗くと、まだ温かい唐揚げがじかにガサガサ放り込まれていた。急に腹ぺこになった気がして、その場で一つ口へ。「食うなよ、玄関で」「お前もどうぞ」…レックは素直に手を出した。


40.『雪の中 挑発的に 服を脱ぐ』(ランダム生成されたお題)
ここ数日は暖かい日が続いたので油断して薄着にしたら、昼から雪が舞い始めた。冬に逆戻りだ。寒い!とはしゃいでいるところへテリーが真冬の上衣を羽織って現れた。軟弱者めと揶揄したらカチンときたのか、「中は半袖だ」と妙に得意げに上衣を脱ぎ捨てたが。「うわ、寒!」「寒いよ…それ着とけよ」