タイトルが付いているものは、お借りしたお題です。


11.
レックと蚤の市を冷やかしていたら、古道具屋で毒蛾のナイフを見つけた。やたらと武器類に詳しい女が店番で、その短刀談義に聞き入っていると、隣にいたレックが唐突に話を遮り、ナイフを購入してさっさと歩き出した。急いでたのか?と訊けば、ため息ついて「見てらんないよ」とだけ返された。


12.『終わりのない夜』
深く口付けて身体を離すと、めずらしく二度目をねだられた。もの足りなかったんだろうか。相手のまつ毛にかかった淡い銀の髪をなぞりながら訊いてみたら、「いつになく良かったから、もう一回」と涼しい顔で言われてしまった。褒め言葉とも思えなかったが、しかしそんなことはどうでもいいのだった。


13.
「あああ、待て待て!」
レックの制止は僅かの差で間に合わなかった。風味付けの香辛料をまるごと一缶、テリーは躊躇なく鍋に放り込んだのだ。「うわ、くさっ!どうすんだよコレ」とテリーは怖い顔をした。「テメェが入れたんだろ!」「レックが入れろっつったろ。量を指定しなかったお前が悪い」


14.
旅の途中、レックは山積みの仕事を片付けるため、しばしばお城に帰還した。
仲間たちと夕食を済ませた後、王子は早々に退席してしまった。「忙しいんだな。昨日もほとんど寝てないらしい」とハッサン。夜中に人の部屋に来なけりゃ少しは眠れたのに──などとは、無論テリーは言いはしない。


15.
甘いデザートの類とは無縁だった。だからテリーは、食事の最後に出てきたシュークリームに困惑した。なにしろフォークを刺せばぐしゃりと潰れてしまうのだ。困ってレックの方をちらりと見れば、フォークとナイフでいかにも綺麗に食べている。ふと彼はこちらに気付き、「手で食べなよ」と笑った。


16.『AM3:00』
午前3時、初夏の夜ははや薄明けにかかりつつあった。
焚火の番をテリーに交代した後も、レックは動かず空を見上げていた。もうすぐいちばん好きな時間だ、などと言う。見るまに薄れゆく空の濃紺、やがて星もあらかた消え失せ──不意のキスを相手の唇に残して、レックはさっさと寝に行ってしまった。


17.『また、明日』
みんなの仲間になってすぐのころ、レックに誘われてなんども二人で夕飯に出掛けた。彼は喋るのも喋らせるのも巧みなたちで、気付けばたいがい夜更けになっていた。深夜のバーで「もう帰らなきゃ」、宿に戻って「また明日」。その言葉になにかをかき乱される気がしたのは、いったいいつのことだったか。


18.
水場に並んで男四人でざぶざぶ洗濯している。裏通りに設えられたモルタル造りの横長で大きな水受け、その右端の樋から注がれる水は絶えず左の縁より溢れ出る。右から左へ緩やかに流れる水にたゆたい、レックの手元に一枚の下穿き。
青い人、青は上衣だけではなかったかと、徹底ぶりに妙に感心した。


19.『ここはダメ』
秋の収穫祭に行きあったらしい。朝も早くにバルコニーから通りを眺めていたテリーが嬉しそうに俺を呼んだ。あくびしながら窓の外に出ると、おはよう、と上機嫌でキスされかけた。
「待って、ここはだめ」間近に迫った唇を慌てて引き剥がすと、テリーははたと俺の目を覗き込み「甲斐性なし」と囁いた。


20.
んーんーららららー。ファルシオンの世話をしながらテリーの口ずさんでいたメロディに聴き覚えがあった。「その曲なんだっけ、詞がついてた気がする」と声をかけたら、聞かれていると思わなかったのだろう、少しバツの悪そうな表情をされた。子供の歌さ、とテリー。「愛してくれたら愛してあげる。…」