タイトルはお借りしたお題です。


1.『隠しきれない』
鞘を新調したらしい。ずっと使っていたやつが戦闘中に割れてしまったのだ。万事無精な男だが、ごく一部の事象に対しては驚くほど執心する。彼にとって武器は、その数少ない事象の一つだった。艶の浅い真新しい革の鞘を捧げ持って、美貌の男は笑みを隠しきれないようだった。


2.『入れ替わり』
バ、と鮮血が飛び散った。骨オバケみたいな魔物の剣の切先はオレの右上腕を抉ったが、装飾の輪っかに阻まれて腕を落とすには至らなかった。前線から下がると、入れ替わりで馬車からテリーが飛び出した。すれ違いざまオレの顔を見てにやりと笑い、右肩を叩こうとしたが──すんでのところで手を引っこめた。


3.『笑うとかわいい』
表情の乏しい男なのだ。愛想ってものを知らない。人生、にこにこしといた方が得だぜ。…そう言ってみたら、テリーの眉間の皺は余計に深くなった。まあ、人生を損得で考える奴はばかものだけどな。…言い足したら、わずかに目を見開いてからおかしそうに笑った。そうしてりゃ可愛げあるのに、と思う。


4.『甘い囁き』(デュラテリ)
強くしてやる、人知の及ばぬ力を教えてやる、欲しいものを手に入れさせてやる。お空の上の魔王はテリーの耳に囁いた。強くなかった自分、力持つ人間に敵わなかった自分、ただ一つだけ失くしたくなかったものさえ失った自分。慈しむものの欠片とてない過去が彼の全てだったから。
彼は、手を伸ばした。


5.『君の気配』
気配を感じて目が覚めれば、果たして目の前にテリーの顔。そのままシーツに潜りこんできたから抱きしめようとしたら、触ったら殺す、と脅された。命惜しさにおとなしくしているうちに、再び眠ってしまった。
朝方になって気付けば彼はいなかった。いつの間にベッドを抜け出したのか、はたまた夢想か。


6.『どんな言葉よりも』
テリーの舌足らずには慣れている。無邪気でかわいらしい愛の言葉、それだけでいともたやすく繋ぎ留まるものだってあるのに。好きだよ、と極めてイノセントな文節を投げれば(同じ単語を返せば済むところを)ぷいとそっぽ向く。鼻のあたまにキスしたら額を殴られた。はにかんだ笑顔──さても言葉など。


7.『ここにいるから』
大地を地獄の黒い稲妻が走り、敵はことごとく殲滅された。…すごい技だな。半ば呆然としてレックが声をかけると、先日仲間になったばかりの銀髪の男は「いつか地獄の扉の向こうへ引きこまれそうだ」と呟いた。まさか、とレックは笑った。「俺たちがここにいるから。連れてかれないように、こっち側から引っ張ってやるよ」


8.『共犯者の笑み』
お茶でも飲んでくる、と夕食後に宿を出たレックとテリーは午前様で帰ってきた。自室の窓辺で空を眺めていたミレーユが気付いて声を掛けると、話が弾んじゃって、とレック。あらまあ。ミレーユは目を細めると、「おやすみなさい」とよろい戸を下ろした。
残された二人は顔を見合わせてにやっと笑った。


9.『だいたいそんなかんじ』
夜半の焚火番はレックとバーバラだった。とりとめもない会話の中でバーバラがふと「どんな人が好きなの?」と尋ねると、レックはウーンと考え込んでから「自由な人」と答えた。なら私もミレーユも範疇外だ、と冷やかすバーバラ。「一番自由そうなのは…テリーかな?」
なにも答えず、レックは笑った。


10.『永遠を現実にしてしまう人』
「お前がぽんこつ扱いした伝説の剣だよ」と笑いながら、レックはラミアスを差し出した。見たいと言うから見せてやったのだ。しかし剣を手にした瞬間、テリーは「重い」と顔をゆがめた。重量ではない。神代の昔から永遠の時を生きてきた、その命が。そして自分にはとても扱えないこの剣を──この男は。